Our Stories 03 温度センサ開発

Story 03シェアNo.1のコア技術を超える、新センサ。
過酷な環境に耐える「ターボチャージャー用温度センサ」を開発。

クルマの走行に重要な役割を果たす排ガスの温度センサ。
エンジンの基幹部を高温から保護し、効率的に稼働する温度域を測定することで燃費を高め、CO2を減らすために使用されるデバイスだ。
環境に配慮し、小型軽量化が進むディーゼルエンジンのターボチャージャーにも、温度センサは欠かすことができない。
しかし、温度変化や振動等への耐久性と正確に測る精度を満たす温度センサをつくることは、極めて困難だ。
センサ技術の世界トップブランドとして技術革新を重ねてきた日本特殊陶業は、高難度のターボチャージャー用温度センサの開発を実現した。
従来の技術では乗り越えられない「壁」を、いかにして乗り越えたのだろうか──。

大矢:入社8年目。素子をメインに、温度センサの開発・設計を担当。

西:低コスト化のための開発、工程設計、変更などを担う。

三島:品質保証部出身。センサのテストを担当。

森田:お客さまとの窓口となるセールスエンジニア。

これまでのやり方が通用しない、
ターボチャージャー用新センサの開発。

技術革新というものは、人が勇気をふるって飛躍をした時にこそ、成し遂げられる──。

車載用の温度センサは、排ガス規制とともに進化してきた。
時代によって目的・求められる性能・測る温度域が異なり、当社もニーズに応じてさまざまな温度センサを開発してきた。

最初の温度センサ開発は、今から40年ほど前のこと。触媒に熱がたまらないようにするため、排ガス温度を検知することから始まった。
その次には、一番機能を発揮できる温度域を管理し、エンジンや浄化システムの能力を最大限に活かすための温度センサが求められた。
そして今は、ディーゼルエンジンの出力を高めるターボチャージャー用温度センサへと、技術は継承され、進化してきた。
さまざまな温度センサの開発から得られたこれまでの知見は、酸素センサ、全領域センサ、そしてNOxセンサへと活かされている。センサ技術は、当社の歴史から見れば比較的新しい分野だが、今ではコア技術のひとつに成長。幅広いニーズに応えるセンサのラインアップを誇っている。

そんな技術の発達の歴史の中で、ターボチャージャー用温度センサは、何が難しいのだろうか。

「エンジンのダウンサイジング化がトレンドとなる中、小さなエンジンでも同等のパワーを得るためには、どうしてもエンジン内は高圧・高温にならざるをえません。そのエンジンから排出されるガスの温度検知には、過酷な使用環境のもとで、高い精度が求められるのです」と、設計担当の大矢。
エンジン近くは、燃焼時は一瞬で高温になり、停止時は即座に温度が下がり、その冷熱の変化は激しい。これらの「熱衝撃」に加え、エンジンの振動にも対応できることが必須条件だ。もちろん走行距離30万kmでの耐久性も保証されなければならない。
従来通りの設計思想では、すぐに壊れてしまう。
設計当初から、開発は難航した。

高精度センサの開発の鍵をにぎる「素子」と、
既成概念を超えたアイデア。

一方で、メンバーには、セラミック事業やセンサ事業で培ってきた大きな自信もあった。

それは、温度を測る上で基本となる「素子」を自社開発している強みがあるからだとメンバーは確信している。
素子を作る場合、その候補となる材料は多く、組み合わせは何百通りにも考えられる。さらにサイズは米粒程度であり、壊れやすく、実現には高度な技術を要する。大きい素子を作ることは容易だが、素子が小さければ、軽量化と低コストを実現でき、振動の影響を受けにくいのだ。
技術者たちは、「世界一小さいセンサを目指してスタートした」と言っても過言ではない。

大矢は、センサの設置場所を、触媒を保護する下流ではなく、あえてエンジンを保護する上流に想定した。下流で使用するならば、これまでの現行品で対応できると考えた。
「やるからには、より難度の高い上流部分の開発を」と、開発者魂に火がついた。
耐久性と精度の向上を検討した結果、大矢が設計した素子は、従来とは違うアプローチになった。

しかし、他のメンバーからは反論が沸き起こった。
これまでの経験則から、「できるはずがない」と判断されたのだ。
40年もの温度センサの歴史が築き上げた既成概念や実績が、大矢を悩ませた。

思うようなデータが出ない時、肯定的に見れば、「次はこうしてみよう」という発想に繫がるが、否定的にとらえると「やっぱりだめだ」と停滞する。
センサ全体の開発を考えると、最終形状を先に共通化した方がプロジェクトは推進しやすいが、素子開発を優先すれば、それが制約になってしまう。

過酷な環境に耐えうる極小部品の開発と製造。その能力を最大限に活かすための、全体構造の設計。素子の設計を全体とどう連携させていくか、大矢は格闘した。

そんな時、彼を救ったのが若手メンバーの励ましだった。
周囲を説得し、時には相談しながら、材料の選定・大きさ・加工方法などを検証し直し、過酷な環境に耐えうる素子設計に少しずつ近づいていった。

実走に近い「テスト環境」が他にはない強み。
だから、できないはずがない。

有望な素子を絞り込んだが、試作品を作るまでには、さらに時間が必要だった。実際のエンジンの代わりにテスト機を長時間運転させて、センサの耐久性を評価しなければならない。
この実走に近い「テスト環境」こそ、実は「素子の自社製造」とならぶ当社の強みだ。
これは一朝一夕にできるものではなく、先輩たちの努力の成果でもあった。

当社がターボチャージャー保護のためのセンサという新しい領域に踏み込んだ時──、
「なぜ、このような壊れ方をするのだろう?」と先輩社員たちは戸惑った。
センサがどのような環境で壊れ、車両で何が起きているか、まるで見当がつかなかったのである。そこで、お客さまであるカーメーカーの担当者から情報を得て、自社のテスト環境でそれを再現することに力を注ぐ。毎日毎日データを取って提出し、すぐにフィードバックをしてもらい、必死に食らいついた。
その結果、「お客さまはこのことを指摘されていたのか」「これが不具合の原因だったのか」と理解を深め、カーメーカーによる実車試験に近いテスト環境を再現できるようになったのだ。

このように築き上げられたテスト環境だが、試作品では、あえて失敗作のデータを取りにいくこともある。「なぜ、そうなるか」を見極めるための材料を見つけることが目的だからだ。
今回も有望な試作品を絞り込むために、このようなテストが何度も何度も繰り返された。

そんなメンバーの日々を支えたのは、センサに賭ける思いだった。
「クルマが大好きなんです。自分の関わった製品で、自動車業界に貢献ができるのなら、苦労はいといません」と三島。
交渉役の森田も、「自分がセンサ搭載に関わったクルマが実際に道路を走っているのをみたり、ボンネットを開けて当社のセンサをみたりすると、やっぱりうれしいですね」。

No.1のコア技術を超えて、
未来を見通した提案へ。

技術者からすれば、ターボチャージャーの温度センサは、エンジン環境も技術面でも、これまでのセンサとはまったく異なる。新分野へのチャレンジだ。そして、これまでのコア技術を超えた新しい分野に挑戦し、努力を結実させたことは、センサ業界での新たなアドバンテージの獲得だ。

先般、新センサは量産化にたどり着いた。
「大げさかもしれませんが、温度センサとして新たな1ページを刻むような製品ができたと思います。技術的な課題もほぼクリアでき、今までとはまったく違う画期的な製品が間もなく生産体制へ入る。うれしいです」と、三島は手ごたえを感じている。

生産工程を担当する西は、気を引き締める。
「せっかくいいものを設計してもらったので、確かな品質で世の中に出していきます。さらに言えば、新しい製品を作るために新しい生産設備を導入するのは、効率的ではない。既存の生産ラインをそのまま活用していきます。責任重大です」。

大矢は、「新しいNo.1製品という自信はありますが、ここで終わりたくはない。これからも挑戦をずっと続けて、当社の温度センサはいつも一番だ、と思えるようにしていきます」と、言う。

今後、さらにエンジンが高度に進化していく中で、開発者たちは、これからも新たな領域に踏み込んでいくことになるだろう。
「今後の技術トレンドを把握した上で、そこにマッチしていくような製品にしていくことが大事です」と、意欲を見せるメンバーたち。
これまではお客さまのニーズに適合した製品を開発してきたが、これからお客さまが将来直面するであろう課題を見越して、それをクリアできる製品を提案できるようになりたい、と言う。プロジェクトメンバーたちの理想は、あくまでも高い。