Our Stories 04 レース用プラグ開発

Story 04最高峰のエンジンを支え、ともに疾走する、
レース用プラグ開発の最前線。

エンジン音が響き渡り、眼前を一瞬にして走り抜けるマシン。その激しい空気の振動が観客を包み込み、歓声が湧き上がる。モータースポーツの最高峰、F1(フォーミュラ1)のおなじみのシーンだ。
疾走するマシンの心臓であるエンジン。そのエンジンに文字通り火をつけるのが、プラグだ。スパークプラグのトップブランドである日本特殊陶業のレース用プラグは、F1をはじめ、さまざまなモータースポーツの世界で、高い存在感を放っている。
世界のレーシングチームの要求に応える、究極のプラグ。開発を担う設計者は、プラグ開発一筋の気鋭の技術者だ。

鎌田:入社以来、プラグ開発一筋。若くして最先端のレース用プラグ開発を担う。

異次元のエンジン性能を支える、
レース用プラグ。

過酷を極めるレースの世界──。

モータースポーツの世界には、さまざまなレースがあるが、どのレースも過酷であることには違いない。また、どのレースでもチューニングされたエンジンと、そのエンジンの力をフルに発揮させるレース用プラグが活躍していることでも共通している。

実は、レース用プラグも一般車用プラグも、点火する仕組みは同じで、形も似ている。ただ、この2種のプラグは、まったく別のものと考えた方がよい。

一般車で使うプラグは、長寿命タイプなら走行距離10万kmで交換すればいい。しかしレース用プラグは、1回のレースで力を発揮したらそれで寿命が尽きてもいい、という特別なものだ。

「レース用マシンはエンジンが一般車とまったく違います。したがって、プラグの点火時期、圧縮比、熱価や接地電極の形など、エンジンの性能をフルに発揮するためのスペックに合わせて、レース用エンジンの開発者とともに、シーズンごとに新しいプラグを開発しています」。
レース用プラグ設計に携わっているのは、若き技術者、鎌田だ。

日本特殊陶業のレース用プラグは、F1を頂点として、世界ラリー選手権、ル・マン 24時間レース、2輪車レースの最高峰であるロードレース世界選手権、国内ではスーパー GT、スーパーフォーミュラなどにおいて、さまざまレーシングチームに使われている。

クルマの走りに火をつける──
プラグに与えられた課題。

そもそもプラグは、エンジンのシリンダー内に噴射された、燃料と空気を混ぜた高圧の混合気に火をつけるものだ。その大きさは車種によって異なるが、長さはおよそ5〜7cmほど。その先端の電極に、2万〜3万Vの電圧をかけて火花を飛ばし、混合気を瞬間的に燃焼させる。

一般車でも、爆発のような燃焼によってプラグも高圧と高熱を受けるが、熱を持ちすぎるとプラグは正常に働かなくなるので、熱を逃がす素材と構造が必要だ。

だが、エンジンの回転域が一般車よりもはるかに高いレース用プラグでは、より高い燃焼温度や圧力がかかるので、特殊なプラグが必要となる。

「レース業界では、設計段階のシミュレーションで幅広い解析をしても、そのデータだけでは信用されません。設計したらすぐプラグを試作し、エンジン開発者に渡して評価してもらい、返ってきたプラグを分析。不具合をチェックしたら、またすぐに改良する。1シーズン、この繰り返しですね」。

特殊なエンジンのための特殊なプラグ。そのプラグを作るためには、エンジンの詳細を知りたいところだが、当然ながらそれはトップシークレット。プラグ開発者には走行結果しか分からない。どのようなエンジンを作り、どのような性能を発揮しようとしているのかを推察し、またプラグの設計に向かう。

「厳しい状況ですが、スパークプラグのトップメーカーとしての長年の知見をもとに対応しています。」と、鎌田は語る。

絡まった糸をほどくように見つける、
ソリューション。

高い性能を求められるレース用プラグの設計は、相互にトレードオフの関係にある特性を、いかに高めるか、という難しい課題に向き合いながら進められる。鎌田の仕事は、複雑な連立方程式を解くようなものだ。

例えば、プラグのある一部分に燃焼による高温化に起因する不具合が発生した場合、対策として、その部品のまわりの温度を下げる必要がある。温度を下げるためには、プラグが過度に熱を受けないように、プラグ構成部品の形状を設計変更して守る。しかし、その設計変更によって、別の部分の温度が上がってしまい、設計変更前には起こっていなかった不具合が発生することもある。

「プラグの不具合を避けるために温度は下げたいが、温度を下げるとほかのところで不具合が起こってしまう。難しい課題が次々と起こるのが、レース用プラグの設計です」と、鎌田は苦笑する。

このようなジレンマ、あるいはトリレンマを、鎌田たちは、素材から見直したり、構造を根本的に変更したりして、これまで何度も乗り越えてきた。

それは、試行錯誤というよりは、つねにイノベーションへの挑戦と言えるかもしれない。

1本のプラグの設計で、
レーシングチームへの貢献ができる喜び。

鎌田は、ほぼ1年を通じて、モータレースのマシンに搭載されるプラグ設計にも関わっている。

モータレースの世界における競争は厳しい。まして、F1での勝利に、並大抵の努力では近づくことすら許されない。
各チームは、前年のマシンより、10分の1、いや100分の1秒でも速く走るために、エンジンを作り、レースごとに改良を重ねている。もちろん、プラグにも短い期間での進化が求められる。

「2016年は、21レースが世界各地で開催されます。レース開催各国の気温や気圧等、サーキット環境に順応できるプラグが必要です。実際には、それほど単純な改良ではありませんが、『プラグを次のレースまでに再調整してほしい』、という急なリクエストが入ることは珍しくなく、シーズン中は絶えず設計変更をしています」。

プラグの改良や調整といっても、鎌田が自らレース会場に飛んでいき、手がけることはない。1回1回のレースの準備が始まる前までに、先方のニーズを読み取り、設計を終え、使えるプラグとして仕上げなければならない。いつも時間との勝負なのだ。

「大変ですが、自分がサポートしたチームがレースで疾走するのを見ると、うれしくてたまりません」。

鎌田も、モータースポーツに魅せられている。

NGKブランドをさらに高めるため、
挑戦は続く。

「こういうエンジンを開発したいが、どんなプラグが必要か?」。
「プラグでこんな問題が起こっているので、何とかしたい」。

レーシングチームの技術者たちから次々と問い合わせが入る。その多くは、鎌田よりもキャリアが長い、プロフェッショナルたちである。

「プラグに関しては、私たちはプロだと自負しています」と、トップブランドを担う開発者として、臆することはないという。これまで、NGKスパークプラグとして築き上げた実績があるからこそ、その資産を自分のものとし、さらに新しい技術を積み上げている。

「自分が関わったプラグを使っているマシンが、チェッカーフラッグを受けた瞬間は忘れることはできません。『1年を通じて日本特殊陶業のサポートがあって心強かった』と言っていただけると、疲れも吹き飛んでしまいます」。

F1をはじめとする、想像を超えた厳しい条件下で使われるレース用プラグをさらに進化させ、NGKスパークプラグへの信頼を高めたいと、鎌田は考えている。