Our Stories 06 SOFC開発

Story 06次世代型の家庭用燃料電池開発で、
水素社会構築に、確かな貢献を果たす。

電気化学反応によって電気と熱を生み出す燃料電池。
大規模な発電所や送電システムに頼ることなく、使う場所で発電することができる燃料電池は、発電時に発生する熱も有効に使えることから、発電ロスや送電ロスが少なく、総合的なエネルギー効率が高い優れた発電システムだ。しかし、燃料電池を使った家庭向けコージェネレーションシステムの普及は、思うようには進んでいない。課題は、コストと耐久性だ。
かねてから、来たるべき水素社会の構築に貢献することを大きな事業テーマに掲げてきた日本特殊陶業は、固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell 以下、SOFC)の発電をおこなう「スタック」の開発を推進。プロジェクトは、今、その実用化に向けたステップを確かに上っている。

小野:SOFCの発電効率と耐久性の両立、低コスト化とコンパクト化に取り組む。

セラミック技術をフルに活かしたSOFCが、
家庭用燃料電池普及のカギを握る。

普及を阻む壁は、乗り越えなければならない。

地球温暖化への危機感や家庭での省エネへの高い関心から、戸建て住宅の新築・改築時に、家庭用燃料電池の導入を検討する家庭が増えている。しかし、2016年4月時点での普及は、日本全体で、まだ15万台。期待は高いが普及が進まない現状に、答えをもたらすと期待されているのがSOFCだ。

日本特殊陶業では、さまざまな用途のSOFCの開発を進めてきた。中でも家庭用燃料電池として期待されているのが「平板形SOFC」。その仕組みはこうだ。

電解質に空気極と燃料極で構成される平らな「発電セル」を何層にも積み重ねると、「スタック」と呼ばれるユニットを形成する。この平板セルを積み重ねてできたスタックは出力密度が高く、少ないスペースで効率よく発電できるメリットがある。

「家庭用燃料電池市場ではこれまで、固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell 以下、PEFC)が先行してきました。PEFCは、電解質に高分子系の膜を使用し、水素イオンを電解質に通し、酸素と反応させるシステムです。一方、SOFCは、電解質にセラミックスを使用し、酸素イオンを通して水素と反応させるものです」、と小野が解説する。
PEFCの発電効率は35~45%と言われているが、SOFCは現状で52%。さらに高い効率にまで持っていくのが小野たちの目標だ。発電効率が高ければ、ランニングコストが下がる。本格的な普及には、消費者にとって魅力的な性能を実現しなければならないからだ。

耐久性と発電効率の両立を目指して、
コア技術を活かす。

SOFCの本格普及に向けて、メーカー各社が燃料電池スタックの高耐久・低コスト、コンパクト化に取り組んでいる今、積み重ねてきたセラミック技術の強みをさらに高めることが求められている。
小野は、「SOFCは、家庭用燃料電池の本格的な普及を担う位置づけです。中途半端なものは出せません。限られた時間の中で市場が納得できる性能を保証するということは非常に難しく、厳しい。しかし、そんな厳しい状況でも結果を出すことに喜びを感じながら開発を進めています」と、語る。

スタックのコンパクト化や高い発電効率は、より小さな発電セルでより大きな電力を生み出せる要素技術の開発により、すでに実現できている。高いセラミック積層技術が求められるが、燃料電池の心臓部分に自動車用ジルコニア酸素センサの量産化で培った機能性セラミック技術を駆使している。
また、スタックは、金属とセラミックスを組み合わせて構成するが、金属とセラミックスの接合技術と、スタック全体をマネジメントする制御技術にも、当社のこれまでのコア技術が活用されている。
「SOFCは、日本特殊陶業のさまざまなコア技術の集大成です」と、小野は胸を張る。

しかし、運転温度が700〜1,000℃というSOFCの過酷な発電環境は、電解質や電極、あるいはスタック全体を痛めつける。

一般家庭での使用を前提とした燃料電池の実用化にあたっては、普及を促進できる基準とされる9万時間・10年間の使用に耐える耐久性を保証できる仕組みを実現しなければならない。

耐久性を確かめ、保証できる仕組みこそ、
実用化へのキーテクノロジー。

素材や要素技術の開発以上に難しいのが、耐久性を確かめる実験だ。

実験室で高い発電効率を発揮できたとしても、9万時間・10年間という耐久性をクリアしなければ実用化には踏み出せない。
「実際に9万時間・10年間の実験をおこなって結果を待っているわけにはいかない。9万時間・10年間の使用に相当する機器や部品の劣化を短時間で評価できる実験手法の確立が、目標でした」と、小野。
しかし、短時間で何万時間にも相当する耐久性を評価することはほとんど不可能だ、という意見すらあったという。

SOFCは、メーカー各社が開発中の新技術のため、9万時間・10年間分の劣化を短期間で評価するための国際的な基準はなく、メーカーごとに評価方法が違う。耐久性を保証する手法がない状況で、どうやって製品を認めてもらえるのか。しかし、これは、小野たちにとっては挑戦のしがいのある課題だったという。

「劣化を加速評価できれば、試験サイクルを早く回せるので、さまざまな材料を検討できるし、結果が出るも早い。世の中にないもの、しかも基準をこれから作っていけるということは、技術者としては、大きな喜びです」。

こうして発想されたのが、セルの発電特性に悪影響を与える物質による劣化に対する耐性の向上と、その影響評価の確立。度重なる試行錯誤の結果、机上試験で効果を確認できたので、実際のスタックに組み込んでの耐久性確認が動き出している。
「誰も着目していないところに着目し、成果を生み出す──」。これが彼らの回答だった。

小野たちは今、水素社会の実現に向けた研究で日本をリードする、九州大学の次世代燃料電池産学連携研究センター等の社外研究機関とも連携しながら開発を進めている。SOFCの開発においては社外研究機関との連携をこれまで以上に緊密に進めており、九州大学伊都キャンパスではキャンパス内にある燃料電池研究開発施設等を活用し、評価実験を精力的に進めているのだ。

水素社会の到来に貢献し、地球環境を守りたい。

「素晴らしい発電システムだけど、高いよね」、というのが一般的な声だろう。
種類や付加する機能にもよるが、公的な補助金制度を利用しても、家庭用燃料電池の現状の購入金額は100数十万円から200数十万円ほど。今後、家庭用燃料電池を普及させていくために、高性能で低コストを実現するSOFCの実用化が、ますます急がれている。

燃料電池は、エンジンに代表される内燃機関と違い水素と酸素の化学反応で電気を作る。「誰でも知っているような化学反応を使って、大きなエネルギーを得ることができる。こんな製品を世に出すことができることに誇りを感じています。少しでも早く、耐久性とともに低コスト化実現にめどをつけたいですね」と、小野は語る。

しかし、水素社会に向けてチャレンジしているのは小野たちだけではない。
日本特殊陶業では、平板型のSOFC開発のほか、円筒形のSOFCの量産技術開発も進んでおり、この円筒形SOFCは、工場やビル、発電所などの用途も期待できる。

SOFCが将来の事業の柱となり、地球温暖化防止にも貢献することを願う小野たちをはじめとするプロジェクトメンバーたち。
燃料電池の本格的な普及は、粘り強い実験の繰り返しの中から始まっている。