Our Stories 07 酵素センサ(全領域空燃比センサ)開発

Story 07排気ガス浄化のキーデバイス、
高い目標に挑んだ
新型「酸素センサ(全領域空燃比センサ)」。

世界各国の厳しい排気ガス規制をクリアするため欠かせない「酸素センサ」。
エンジンから吐き出された排気ガス中の酸素濃度をモニタリングして信号に換え、
燃料噴射装置がその信号に基づいて燃料噴射を制御して排気ガス浄化に貢献する。
この酸素センサには、大きく分けて理論空燃比の制御に使われる「酸素センサ」と、薄い混合気から濃い混合気まで広い範囲の空燃比において精密な測定と制御ができる「全領域空燃比センサ」の2種類がある。
日本特殊陶業は、1980年代から酸素センサを製品化し、90年代には全領域空燃比センサを開発。以来、カーメーカーとの技術開発を続け、2015年には先進の全領域空燃比センサ(ZFAS-U2)の量産化を成し遂げ、市場をリードしている。

出口:カーメーカー担当としてお客さまニーズを先取りし、開発コンセプト策定などを担う。

五十嵐:酸素センサのコア部品である素子の開発、試作・評価を担当。

大場:開発コンセプトに基づき、酸素センサ全体の最適設計に取り組む。

酸素センサ市場で勝負をきめるのは、立ち上がりの早さだ。

酸素センサにおける技術開発競争の主戦場が変わってきた。大切なのは走行中の性能ではなく、むしろ走り出す前の性能だった———。

酸素センサに求められるのは、走行中の排気ガスに含まれる酸素濃度の精密な検知能力であることは当然だが、エンジンをかけてから走り出すまでの間に、いかに早くセンサを活性化させることができるかが問われている。というのも検知を担う素子は、高温に温めないとその性能を発揮できないからだ。
エンジンをスタートさせた直後はセンサ機能が立ち上がっていないため、たとえ短い時間でも排気ガスはクリーンとは言えない。

「走行中の性能は、従来の全領域空燃比センサでも十分です。私たちが競合メーカーに先駆けて開発したかったのは、いち早くセンサを立ち上げて燃料の噴射をコントロールできる状態にし、排気ガス浄化に貢献できる酸素センサでした」と語るのは、開発コンセプト策定に関わった出口だ。

立ち上がりを早くすることに加えて、出口たちは以下のような開発コンセプトを掲げプロジェクトをスタートさせた。

  • ・燃費向上に寄与するために、センサを温めるヒータの消費電力を半減すること。
  • ・素子を高温に温める時、排気管の中に水分が残って素子に付着すると、素子が急激に冷やされて割れてしまう。そこで耐被水性の向上を図ること。
  • ・センサ出力をより早くECU※にフィードバックするため、センサをエンジンに近いところに付けて、既存製品より耐熱性の向上を図ること。

どれも簡単な目標ではなかったが、ヒータの消費電力を下げるため、素子そのものをこれまでになく小さくする試みは、困難をきわめた。

※ECU・・・エンジンコントロールユニット。エンジンの制御を行うコンピューターの中心となる装置。

すべては「可能な限り素子を小さくする」ために。

立ち上がりの早さと素子と一体となったヒータの消費電力の低減を実現するために、素子は可能な限り小さくしなければならない。
開発目標を達成するためには、素子のサイズを先に決め、酸素センサ全体の設計をそれに合わせることになった。

「ヒータの消費電力を低減するために、従来品と比較して約20%断面積を削減しました。この素子は、ジルコニアとアルミナの薄い板を 複数枚積層していて、その中にヒータが挟み込まれています。さらに、排気ガスをモニタリングする検知電極と組み付け部品との導通部があり、それぞれが非常に薄い構造となります。しかも全体で耐被水性を高めなくてはならなく、とても大変でした」と、素子開発を担った五十嵐は語る。

例えば、素子に使うセラミックスの強度を確かめるため、破壊試験を幾度となく実施したが、1回の試験で最低でも100本単位の素子が必要なので、試験に使った素子の本数は膨大な数に上った。
また、積層されたセラミックスの断面が設計通りにできているかどうかを電子顕微鏡で確認するため、量産する場合と同じプロセスでたくさんの素子を作ったという。
「時には、朝から晩まで電子顕微鏡に貼り付いていましたね」。

ショックを受けたのは、カーメーカーに提出したサンプルが設計基準を満たしているのに、なぜか破損した状態で戻ってきたこと。
「想定していない特性の変化が出た時に、その原因調査に全エネルギーを注ぎました。お客さまは“当社なら必ず原因を究明してくれる”、と期待されていることが分かっていたので、めげずに粘り強く挑戦を続けることができました」と、五十嵐。
難題だった耐被水性の向上については、構成の異なる2つの層を組み合わせることで、今までの10倍の水がついても耐えることができるというレベルまで到達した。

開発の楽しさは矛盾するスペックを両立させること。

素子開発とともに酸素センサ全体の開発も進められていた。

「酸素センサ全体の設計では、素子が開発目標通り最大限の能力を発揮できるような構造を考えました。空燃比センサの中では世界最小サイズの素子から、いかに正確に電気信号を取り出すか、いかに素子を他の部品と組み付けるかが課題でした」と語るのは酸素センサ開発のスペシャリスト、大場だ。

「素子の幅と厚みと長さどれも従来のものより小さくなるので、組み付け上の困難さは高まるばかり。長さが短くなると電気接点を確保できる縦方向の範囲が減るし、狭い幅にいくつも端子を並ばせなければならない。また、絶縁のためのセラミックス製部品の精度要求も高くなります。開発中は、まさに、これまでにない挑戦の連続でした」と、大場。

特に、電気信号を取り出す端子の組み付けには、開発者のプライドをかけたという。

「組み付け工法には、素子を部品で挟みこむ方法もあり、素子に負荷をかけない点で優れています。しかし、この構造では部品点数が多くなり、量産時のデメリットが予想されました。そこで私たちは、当社のセンサ事業のアドバンテージである、あらかじめ組み立てた端子ユニットを素子に差し込むカセット工法を選択しました」。
薄くて小さい素子にとっては難易度が高い工法だが、組み立てが単純になり部品点数が減るので、コスト面でも信頼性の面でも量産段階のメリットにつながった。また、排気ガスから生成される水や熱、車両の振動などにも耐える高い耐久性がセンサには求められ、水に対しては、現時点で世界唯一のデューポイントフリーセンサ※が完成した。「高い目標ではあるが、何が何でも達成したい」という強い想いとともに超えた高い壁だった。

デューポイントフリー:排気管の温度が上がると水が存在できない状態に達する。被水割れを防ぐため、通常はその状態になってからセンサを使い始めるが、デューポイントフリーセンサの場合は露点制御が不要となる。

同じ目標を目指しながらもせめぎ合う、製品設計と量産設計。

成功は次の課題を生む。だが、それはゴールへの道だった。

小さくて高性能の素子と、その素子を活かす酸素センサの全体構造が決まった。それは、量産段階で、部品を高い精度でしかも高速で組み付けることを要求する。
「部品の寸法公差を厳しくして、さらに部品間のクリアランスも限界まで小さくしたい」という大場たちは、高い品質での高速組み付けを求められた量産設計のスタッフたちと幾度となくぶつかった。

当時の厳しいやり取りを思い出しながらも、「量産設計は、製品設計とは違うチームが担当し、その段階から製品設計には後戻りはし難しいものです。ですが、次世代の主力製品として育てるためには、量産設計の考え方も考慮しなければなりません。優れた製品をお客さまのニーズに応えて世に出すという目標は一緒ですから」と大場は語る。

そこで大場たちは、互いの主張をともにかなえるために、あえて製品設計を見直すことにした。組み付けやすくするように部品同士のクリアランスを見直すのではなく、同じクリアランスのまま組み付けができるように、部品の形状を変えたのだ。
生産技術や設備設計の担当者も新しい工法に挑戦した。高い組み付け精度を実現するため、部品のつかみ方から見直し生産設備を改良。高い品質と生産性を両立させた。

量産開始から1年以上が経過した今では、新しい酸素センサは国内外のお客さまの期待に応え、世界各地で排気ガス浄化に貢献している。

プロジェクトは終わらない。

各国の厳しい排気ガス規制を満たすと同時に、お客さまの要求をも満たすには非常に高いハードルがある。しかしながら、日本特殊陶業はそのハードルを常に越えられる企業でありたい。

例えば、全領域空燃比センサは電子回路で制御しなければ作動しない。センサが最大限の性能を発揮できるように、回路とのマッチング面でお客さまをサポートしていくことはきわめて重要だ。
「私たちはいつもお客さまと真剣に向き合って、サポート活動を展開しています。開発が終わって量産が始まり、納品ができたらプロジェクトが終わるわけではありません。カーメーカーは常にその次、あるいは次の次を研究しています。現行製品でのお客さまサポートとともに、私たちの新しい開発テーマの探求もすでに始まっているのです」と、市場ニーズを知る出口。

酸素センサの進化は、止まることはない。
さらに、お客さまの歩みの先をゆく進化でありたい。

これまでにお客さまからいただいた評価を胸に、
酸素センサの開発者たちは新しい目標に向けて情熱を燃やしている。