Our Stories 09 全固体電池開発

Story 09次世代電池の
「全固体電池」の開発競争の最前線で
安全で高性能な電解質を開発し、実用化への道を拓く。

1991年、世界で初めて商品化されたリチウムイオン電池。
今やEV(電気自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、HV(ハイブリッド車)向けの車載用や民生用を問わず、世界の電池市場を席巻している。
このリチウムイオン電池が本格的に普及しつつあった2009年頃には、
革新的な次世代電池開発の競争が始まり、
ポストリチウムイオン電池としてすでに全固体電池が有望視されていた。
全固体電池には固体の無機化合物が電解質として使われる。
セラミックス分野で独自の技術力を誇る日本特殊陶業にとっては、
それまでに培った強みが活かせるチャンスだ。
2020年代前半には市場投入が期待される全固体電池。
新たな成長分野に向けて研究が進む開発プロジェクトの現況を見る。

獅子原:2009年の開発プロジェクト立ち上げ時からのメンバー。電解質、電極の材料開発から電池設計まで手がけるチームリーダー。

竹内:セラミックス材料開発のスペシャリスト。非焼結タイプの固体電解質開発を担う。

和田口:一番の若手ながら電池設計の専門知識を活かして全固体電池をカタチにする。

電解質として固体酸化物を採用し、
次世代電池の開発競争に打って出る。

安全で大容量、高出力。さらに小型・軽量化。次世代電池のスペックはさらに高まる。

既存のリチウムイオン電池は、液体の有機系溶剤を電解質として用いるのに対して、全固体電池では無機系の固体電解質を用いる。化学的に安定な固体のセラミックスを電解質に使うので、リチウムイオン電池のように電解液が漏れて発火するおそれもなく安全だ。しかも動作温度域が広くエネルギー密度を高めることができるので、実用化を目指した熱い開発競争が、産学を巻き込んで繰り広げられている。

当社が全固体電池の開発に着手した頃、すでに他企業もこの分野に参入していた。
「先行メーカーとどう勝負するかが一番の課題でした。他社は全固体電池に使う電解質に硫化物を採用していますが、私達は酸化物に目を付けました。硫化物は水に触れると有害な硫化水素ガスがどうしても発生します。一方、酸化物は燃焼や有毒ガス発生のおそれはありません。この高い安全性を活かした当社独自の材料を開発してオリジナルの電池を作ることを目標として掲げました」と、チームリーダーの獅子原は語る。

だが候補物質が決まったからといって、イオンの伝導率は充分ではなく、そのまま電解質として使えるものでない。実用に足るレベルまでイオン伝導率を向上させなければなければならない。また所望の形状に緻密度を高めて焼結させることも重要だ。候補物質をベースに、電解質としての特性を高める研究が始まった。

「当社にはセラミックス事業で築いてきた、一部の元素を別の元素に置き換える置換技術とセラミックス材料を緻密で強固なものにする焼結技術があります。材料開発の段階で、先輩達が培ってきたこれらの技術とノウハウを駆使することができたのは大きな強みでした」と、獅子原。プロジェクト発足から3年で独自の酸化物固体電解質を開発。酸化物では最高水準のイオン伝導率に到達した。

焼く電解質から焼かない電解質へ。
さらに優れた材料開発の道が拓かれた。

行き詰まっても発想を転換すれば可能性は見えてくる。

プロジェクトチームが開発した全固体電池は、当初は焼結した固体電解質に正極と負極の電極を付ける構造だった。焼結型の電解質には、リチウムという最高の負極材料が問題なく使えると考えられていたからだ。しかし、電気抵抗を小さくするために可能な限り薄くした固体電解質を焼結すると、曲がったり、取り扱い時に割れたりと次々と課題が発生した。
「これでは焼結タイプの開発を続けるメリットがなくなってしまう」と考えたプロジェクトメンバーは、発想を180度変えて、結着材と組み合わせて焼かずに電解質を固める道を模索した。焼結しなくてもセラミックスはセラミックス。固めるだけで電池にしてしまおうというわけだ。

「非焼結タイプは、焼結タイプの実験から派生した技術。焼結タイプのパーツを作っていた時に偶然に生まれたアイデアでした。2015年のことですね」、と獅子原。

「ずっと焼結タイプのほうが有望だと思っていたので、方針転換にはとまどいました」と語るのは、入社以来材料開発に力を注いできた竹内だ。
「最初は半信半疑。先輩の獅子原から高いイオン伝導性があると聞いて驚きました。焼結すれば界面がつながっているのでイオン伝導性は高くなり出力も高いものができるのですが、焼結しないと単に粉を固めただけのものなので、電池としてどう仕上がるのか想像がつきませんでした」と竹内は語る。

焼結すると物性は高まるが、電池化の難易度やコストも上がる。一方、非焼結タイプは製造プロセスが簡単になる上、大きくできる。性能は焼結タイプより劣る面もあるが、酸化物系の全固体電池の開発メーカーの中で、当社独自の電解質でオリジナルの電池を作ることができる。
メンバーは思いがけない方向転換を前向きにとらえ、竹内を中心に材料開発を加速させた。

固体電解質の物性を把握し、
電池化を支えたのは新しい力だった。

材料開発とともに、電池としてカタチにするための技術開発も進んだ。

まず固体電解質となる材料を薄く作る技術が必要だが、これは当社製品の半導体パッケージ製造プロセスにおけるセラミックス粉末を溶媒中に均一分散させたスラリーを薄く塗る技術を活かすことができた。それができると、次は電解質に合う電極の開発だ。できるだけ電気をためることができる素材を使い、電解質と接触する部位の抵抗をできるだけ下げて作り込む。
このプロセスを経ると、ようやく一枚の電池のセルができ上がり、今度はそれを積層し、パッケージ化することで電池のカタチができ上がる。

こうして電池の試作と評価を繰り返していた頃、開発成果を内外に示すためにデモ用の試作品を公表する段階を迎えた。ここで力を発揮したのがチーム一の若手、和田口だった。
「大学でも全固体電池は非常にホットなテーマです。私も、どういう構成にすれば性能のよい電池が作れるかということを研究してきたので、プロジェクトメンバーに選ばれて感動しました。でも初めは膜形成が上手くできない、ショートしてしまうなどうまくいかないことが続きました。大切なデモ品作製を任されたプレッシャーもひしひしと感じていました」と、語る。

「和田口は電池化プロセスを確立するためのキーマンです。先輩のアドバイスを受け、自ら工夫しデモ品を完成させました。2016年の展示会では、酸化物を焼かないで固める当社独自の技術に驚く人もいました。今後の開発でも和田口の貢献が必要です」と、材料開発を支える竹内は、後輩に期待を寄せる。
実際、2017年の展示会でも和田口の力が存分に活かされた。

固体電解質、電極、パッケージ化。
すべての開発が新たな段階に進み始めた。

追求すべきは、どこまでも日特らしさだ。

固体電解質を電池化するための技術を確立することが、他社との差別化を図る一番のポイントだ。焼かないで薄く固める技術、優れた電極と合わせパッケージにする技術、そしてそれを電池としてカタチにする技術が当社の強みであり、すでに関連特許を申請している。

現在、焼かないで固める固体電解質を用いて電池のカタチにはできたが、実用化にはさらなる性能向上が必要であり、プロジェクトチームでは固体電解質のブラッシュアップに力を注いでいる。
「焼かないので固めるために圧力をかけます。その結果生じる電解質内部の構造が非常に重要です。電解質の密度向上や固体電解質粒子同士の接触界面を制御する技術が問われますので、実用に向けた研究に取り組んでいます」、と獅子原。「また、電極の研究も新たな段階に入りました」と言う。
プロジェクトチームでは、リチウムイオン電池では有機電解液と反応するので使えない、と見限られてしまった材料の可能性にも目を付けている。電解質が液体ではなく固体だからこそのメリットが活きている。

もちろん材料開発においても、まだまだ挑戦すべきことがある。出力やイオン伝導率をさらに高める必要がある。ただ焦ることなく、ゴールを見据えて一歩ずつ進むしかない。

「毎日、地道な実験を繰り返しています。いろいろな素材を試して新しい電極を作る。それを電解質と合わせてパッケージ化。そしてさらに電池としてカタチにし、期待する性能が出るかどうか検証しています。大変ですが、新たな段階に進んだ手応えがありますね」、と獅子原は笑顔を見せる。

目標はできるだけ早い段階での
実用サンプルの出荷だ。

新しい分野への挑戦だから課題は尽きない。だがチームには、全固体電池の開発が本当に好きなメンバーが揃っている。

「いろいろな発見があり、常に勉強ができ、楽しいですね。会社からの期待も大きくなってきたので、材料に関しては早いタイミングで世に出したいし、電池としては大きな市場に向けた研究を進めていきます」と、獅子原は今後の展望を語る。

安全で高い性能の全固体電池には、車載用はもちろんのこと、家電製品や携帯電話、無人飛行機など幅広い分野での応用が期待されるので、日本特殊陶業の新たな事業分野として成長する可能性も大きい。

「当社独自の非焼結型酸化固体電解質を用いた電池は、酸化物電池としてこのサイズのものは世界初だと自負しています。早くサンプル品を完成し、世に問いたいですね」と、3人は声を揃えた。